『四畳半神話大系』や『夜は短し歩けよ乙女』で確立された森見登美彦のエキセントリックな作風から離れた本作は主に暗い静けさが漂う孤独なストーリーである。そのためか、著者から元気なユーモアを求める層にとっては期待外れとなる可能性があるが、個人的には今まで読んだ森見登美彦の作品でナンバーワンと言ってもいい程の傑作だと思う。
本作にはある一定のファンタジー要素もあるが、どちらかと言えば物語は内省的なホラー小説である。特に素晴らしく際立つのは比較的陳腐な出来事を意外にもシンプルな文体で描くことにより、かえって不気味な不安さを常に感じさせる著者の才能だ。また、5つの章を通し、登場人物が敢えて重要な情報を明かさず、読者独自の推理を必要とさせるミステリー要素も強く印象に残った。
著者のヒット作と異なる点が多いため、必ずしも万人受けする作品ではないかもしれないが、自分の意見としては寧ろ著者がこの類のダークな物語をもっと多く書くならそれはそれで非常にウェルカムだ。